疾患について

脳は未だ全てを解明できていない、複雑な生命活動の制御や、自我などの知性の働きに深く関わる臓器です。脳・神経の病気は実に多種多様な症状が出ることがあります。
脳に発生する病気の原因や症状、治療法などを紹介します。

  • 未破裂動脈瘤とくも膜下出血について
  • 脳卒中の克服
  • 機能的疾患
  • 特発性三叉神経痛、片側顔面けいれん、舌咽神経痛、本態性振戦など
    会話や食事の際に堪え難い激痛を生じる三叉神経痛や舌咽神経痛、また顔の半分が自分の意志とは無関係にピクピクと動く顔面けいれんはそのほとんどが脳幹(大脳と脊髄を結ぶ非常に重要な部分)周辺での各神経への血管による圧迫が原因とされています。放っておいても決して命にはかかわらないものの、患者さんにとってはどれも堪え難い苦痛であります。当院では内服治療でコントロールできない患者さんに根治術である手術(微小血管減圧術)を行っております。
    全身麻酔の手術で手術時間は2-3時間(早ければ2時間以内に終えることもあります)、入院期間は5-10日間程度になります。

    一般的に三叉神経痛や顔面痙攣における「手術による症状消失、または改善がみられる割合(手術成功率)」は80~90%といわれておりますので残念ながら全員に完治をもたらすわけではありません。しかしながら当院での手術成績は三叉神経痛で100%、顔面痙攣で96.5%という有効性を認めております。

    三叉神経痛(さんさしんけいつう)

    三叉神経痛とは顔に痛みが生じる病気です。顔の痛みを症状の一つとして生じる疾患はいくつかありますが、ここでは特発性三叉神経痛について記載致します。三叉神経とは顔面の感覚(熱い、冷たい、痛い、触れている感覚等)を脳へ伝える脳神経の一つです。額から眼の周り、頬、あご等顔全体の感覚、そして歯の痛みや口の中の感覚も脳へ伝えています。頬に少し触れた際、食事をしているとき、または会話の途中等に突然顔面に激痛が生じることが典型的な三叉神経痛の症状です。痛みは非常に強く、「電気が走るような」とか「稲妻が顔を突き抜ける感じ」または「頭から釘をさされたような」等と表現されることもあるくらい激しい痛みであります。突然痛みがきますが痛みの持続時間としては数秒のものが多く、続いたとしても数十秒です。これは頭蓋内の血管や脳腫瘍等が三叉神経を圧迫し、それが原因で三叉神経から脳へ伝わる信号に変化が生じることがそのメカニズムと考えられています。顔面の痛みでも数分以上続くようであれば三叉神経痛である可能性は低いと考えられます。ただし痛みがあまりにも強い場合ため、実際に痛みがひいていても「痛い感じがするという錯覚」に陥り数分間も痛みが持続しているような気になる方もいらっしゃいます。また痛みは突然やってきますし激痛ですので痛みを生じるのが怖くて食事すること自体が恐怖になり、体重がみるみるうちに減っていく方もいらっしゃいます。

    三叉神経痛の主な原因
    三叉神経痛の主な原因は「頭蓋内血管による三叉神経の圧迫」によるものです圧迫部位は頭の中心にある脳幹(多くの脳神経が出入りし、大脳や小脳と脊髄を結ぶ生命維持にとって大切な部分)から三叉神経が分岐した直後の 三叉神経根出口領域(root exit zone; REZ)と呼ばれる部分です。この部分に圧迫血管の拍動が伝わり三叉神経が「異常興奮」することで、顔面やあごからの感覚の情報が誤って「強い痛みとして情報」となり脳へ伝わることで激痛が生じます。他の原因としては脳幹周囲にできた脳腫瘍や脳動静脈奇形等による三叉神経への圧迫によって生じることもあります。

    三叉神経痛の診断
    脳神経外科、神経内科の専門医でなくとも痛みの性状やどのような時に痛みが生じるか、またその経過等を詳しく問診することである程度の見当がつきます。残念ながら三叉神経痛という確定診断がつくまでにいくつもの病院をまわった挙げ句、虫歯でもない歯を抜かれた(もちろんそれで痛みがなくなるわけではないです)という患者さんは少なくないです。そういった意味ではきちんとした診断が必要になります。三叉神経痛には症状として特徴的な点がいくつかあり、専門医であればほぼ診察のみで診断がつきます。しかし三叉神経痛が治療可能である疾患であることすら御存知ない方も実は多くいらっしゃってそのほとんどはまず歯科医を受診されます。10年以上も三叉神経痛で苦しんでおられた患者さんもいらっしゃいました。 診断には診察に加え頭部MRI(強力な磁石でできた筒に中に入ります。磁気を用いて頭蓋内の断層写真が撮影できます。放射線被爆は一切ありません)で三叉神経周囲に並走している、またはループを形成している血管を確認することが必須です(稀ですが脳腫瘍による圧迫がみつかることもあります。これらが三叉神経の根元やその周囲を圧迫しているようであれば症状と合わせほぼ診断確定となりますがそれでもまだ100%確定とはいえません。これら血管はその直径が1mm前後の細いものであり、また画像上神経と血管が並走しているからといって必ず圧迫があるとは言えません。実際に神経への圧迫があるかどうかは手術で直接確認するまでは証明することはできません。圧迫している血管(責任血管といいます)は動脈ばかりではなく静脈のこともあります。実際には手術中に顕微鏡で確認しても神経を圧迫する血管が全くみつからないこともあります。その場合は三叉神経周囲のくも膜(脳表面を覆ったり脳の隙間にある薄い膜)の癒着が原因であったり、くも膜によって三叉神経がねじるようになっていることもあります。そのくも膜を切ることで三叉神経にゆとりをもたせることでき、結果痛みが消失した事例もあります。

    三叉神経痛の治療
    <左三叉神経痛に対する微小血管減圧術>

    三叉神経痛に対しての治療としては内服治療、神経ブロック、放射線治療(ガンマナイフ)、手術療法等があります。三叉神経痛がみられたから即手術というわけではありません。治療内容をどうやって選ぶかについては診断を確定したうえで患者さんの訴え、症状の程度、発症からの期間、健康状態、年齢等を総合的に考慮して決定します。三叉神経痛に対する治療選択の明確な基準はありませんが一般的にはまず薬物療法を行い、それでも痛みのコントロールができない場合、または最初は痛みが抑えられていたものが徐々に症状の進行が見られ内服薬の量が増えてきた場合、または内服薬でアレルギー症状等がみられた手術といった流れになることが多いようです。もちろん激痛に耐えられなくて最初から手術療法を希望される患者さんもいらっしゃいます。

    発症から間もない、もしくは症状が軽度であればまず頭部MRIにて他の疾患がないことを確認したうえで症状に応じて薬剤投与を開始し慎重に経過観察を行います。内服投与後すぐに効果がみられる方もいらっしゃいます。カルバマゼピン(商品名:テグレトール)、プレガバリン(商品名:リリカカプセル)等を用います。ほとんどの方で痛みを緩和させることができますが、根本的治療ではないため100%痛みをコントロールできるわけではありません。服用しだしてすぐに痛みが消えたとしてもその後徐々に痛みが増していき、それに伴い服用する薬の量も増えていくことがあります。その場合内服薬の副作用としてめまい、ふらつき、眠気、薬疹、アレルギー等がみられだしそのために内服を中止せざるを得ない状況になる患者さんもいらっしゃいます。

    薬が飲めないようになると激痛を我慢するか次の治療を考えなければなりません。ペインクリニックで神経ブロック療法を行っておられることが多いですが熟練した専門医による施行が必要となります。他に治療中の疾患をお持ちであったりするために手術が受けられない患者さんに対してはガンマナイフという放射線治療を選択される方もいらっしゃいます。私たちの施設では薬物療法でコントロールできない患者さん、もしくは手術療法を希望される患者さんに手術(微小血管減圧術)を行っております。

    三叉神経痛の原因の90%以上は脳幹近くでの三叉神経への血管の圧迫ですので、その血管を顕微鏡下に数ミリ移動することで圧迫を取り除いてあげることが根本的治療になります。手術は全身麻酔で行います。三叉神経痛と同側の耳の後ろ(髪の生え際より内側)に4-5cmの皮膚切開をおきます。その下の頭蓋骨に直径3cmほどの穴をあけ顕微鏡を用いて三叉神経を圧迫している部分の観察を行います。圧迫血管が確認されたらそれを慎重に三叉神経から離すように移動し、頭蓋骨内部の壁にテフロンテープ(人工血管に用いられる合成繊維)とフィブリン糊(生体から抽出されたのり製剤)で固定します。ほとんどの方が「術直後から痛みが消失」しますが数週間から数ヶ月を経て「改善」にとどまる方もいらっしゃいます。一般的には手術の有効率(手術によって痛みの完全消失もしくはある程度の改善が認められる割合)は80~90%といわれています。手術は最も有効な治療法ではありますが全ての患者さんで完治を達成できるわけではありません。手術合併症で最も多いものは同側の顔面のしびれ、聴力低下、複視(ものが二重に見える)、髄液漏等になります(合併症の発生率:3-5%)。中には再手術を受けられる方もいらっしゃいますが再手術では合併症の率はさらに高くなります。入院期間は平均8-10日間ですが、状態によっては術後翌日から食事はもちろんのこと歩行も可能ですし術後4~5日で退院される方もいらっしゃいます(創部の抜糸は外来で行います)

    参考HP:「脳神経外科疾患情報ページ 三叉神経痛とは」 日本脳神経外科学会

    顔面痙攣(がんめんけいれん)

    顔面痙攣(正確には片側顔面痙攣といいます)とは顔の半分が自分の意志とは関係なくピクピクとけいれんする疾患です。
    これは顔面神経の不随意な興奮によってその支配筋(眼輪筋、口輪筋、頬筋等)が発作性、反復性に収縮することによって生じます。中年の女性に多く、片側の眼の周囲(特に下眼瞼部筋)から始まり、徐々に口元へと広がっていきます。精神的緊張、ストレス、疲労、顔面筋の運動などで誘発されることが多いようです。はじめは眼の周りのピクつきだけであったものが、数ヶ月から数年の経過で症状が進行していき、頬から口元へと痙攣の範囲も徐々に広がっていくことが多いです。症状の進んだ患者さんでは顔だけでなくあごの下の筋肉(広頚筋)までも痙攣してきます。また痙攣の起きる頻度も徐々に高くなり四六時中痙攣している患者さんもいらっしゃいます。顔面痙攣が長期間にわたる患者さんでは、けいれんの収まっているときに同側の顔面麻痺(鼻唇溝;ほうれい線が消え口元が垂れる)がみられることもあります。この症状がもとで人前に出るのが億劫になったり、その結果転職せざるを得なくなったり(特に営業の方)、またマスクなしでは外出することが出来なくなったという方もいらっしゃいます。

    顔面痙攣の主な原因
    顔面痙攣の主な原因は「頭蓋内血管による顔面神経の圧迫」によるものです。圧迫部位は頭の中心にある脳幹(多くの脳神経が出入りし、大脳や小脳と脊髄を結ぶ生命維持にとって大切な部分)から顔面神経が分岐した直後の顔面神経根出口領域(root exit zone; REZ)と呼ばれる部分です。この部分に圧迫血管の拍動が伝わり顔面神経が「異常興奮」するため、その支配筋である顔面の筋肉が本人の意思とは関係なく(不随意に)収縮を繰り返してしまいます。

    他の原因としては脳幹周囲にできた脳腫瘍や脳動静脈奇形、脳動脈瘤による顔面神経の圧迫、その他耳下腺腫瘍、多発性硬化症、Chiari I型奇形等種々の病態によって生じるといわれていますが非常に稀です。また末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)後に生じることもあります。

    顔面痙攣の診断
    脳神経外科、神経内科の専門医による診断が必要になります。顔面痙攣は明らかで分かりやすい症状ですがそもそも顔面痙攣が治療可能である疾患であることすら御存知ない方もいらっしゃいます。最長で20年間顔面痙攣を(病気と知らずに)放置しておられた患者さんもいらっしゃいました。診断には診察に加え頭部MRI(強力な磁石でできた筒に中に入ります。磁気を用いて頭蓋内の断層写真が撮影できます。放射線被爆は一切ありません)で顔面神経周囲に並走したりまたはループを形成する血管を確認することが必須です(非常に稀ですが脳腫瘍による圧迫がみつかることもあります)。これらが顔面神経の根元やその周囲の脳幹に圧迫しているようであれば症状と合わせほぼ診断確定となりますがそれでもまだ100%確定とはいえません。これらの神経や血管はその直径が1mm前後のものですので実際に圧迫があるかどうかは手術で直接確認できるまでは証明することはできません。顔面痙攣がみられたから即手術というわけではありません。治療をどうやって選ぶかについては診断を確定したうえで患者さんの訴え、症状の程度、発症からの期間、健康状態、年齢等を総合的に考慮して決定します。顔面痙攣に対する治療選択の明確な基準はありませんが一般的にはまず薬物療法、ボツリヌス菌の注射、それでも症状進行が見られる場合に手術といった流れになることが多いようです発症から間もない、もしくは症状が軽度であればまず頭部MRIにて他の疾患がないことを確認したうえで慎重に経過観察を行います。顔面痙攣を適応症とする内服薬はなく、一般的に内服薬の効果は乏しいことが多いですが中には効果がみられる方もいらっしゃいます。カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンといった抗痙攣薬やビタミンB12製剤を投与することが多いです。

    手術は希望しないが一時的にでも痙攣を止めたいという方にはボツリヌス毒素療法という選択肢があります。これはA型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス)を痙攣の起きている顔面筋に数カ所に分けて注射し、顔面筋を麻痺させる(神経筋接合部に作用します)ことで効果を期待します。有効率は92.6%といわれています。我が国では2000年にA型ボツリヌス毒素製剤の顔面痙攣への適用が認可されました(保険適応となりました)。治療効果は注射後2、3日で出現し、1-2週間で安定してきますが、効果持続期間は3ヶ月前後といわれています。繰り返し注射をすることはできますが対症療法であり(症状緩和のみ)であり根治治療ではありません。

    発症から数年経過しそれとともに症状が進行し目立つようになってきた場合、ボツリヌス毒素療法で満足できない場合、完全な治癒を望む場合には手術療法(微小血管減圧術)をお勧めしております。顔面痙攣の原因の99%以上は脳幹近くでの顔面神経への血管の圧迫でありますので、その血管を顕微鏡下に数ミリ移動することで圧迫を取り除いてあげることが根本的治療になります。手術は全身麻酔で行います。痙攣を起こしている側の耳の後ろ(髪の生え際より内側)に4-5cmの皮膚切開をおきます。その下の頭蓋骨に直径3cmほどの穴をあけ顕微鏡を用いて顔面神経を圧迫している部分の観察を行います。圧迫血管が確認されたらそれを慎重に顔面神経から離すように移動し、頭蓋骨内部の壁にテフロンテープ(人工血管に用いられる合成繊維)とフィブリン糊(生体から抽出されたのり製剤)で固定します。ほとんどの方が「術直後から痙攣が消失」しますが数週間から数ヶ月を経て「改善」にとどまる方もいらっしゃいます。一般的には手術の有効率(手術によって痙攣の完全消失もしくはある程度の改善が認められる割合)は80~90%といわれています。手術は最も有効な治療法ではありますが全ての患者さんで完治を達成できるわけではありません。手術合併症で最も多いものは同側の聴力低下、顔面麻痺、嚥下障害、髄液漏等になります(合併症の発生率:3~5%)。中には再手術を受けられる方もいらっしゃいますが再手術では合併症の率はさらに高くなります。入院期間は平均8~10日間ですが、状態によっては術後翌日から食事はもちろんのこと歩行も可能ですし術後4-5日で退院される方もいらっしゃいます(創部の抜糸は外来で行います)

    参考文献:「標準的神経治療: 片側顔面痙攣」日本神経治療学会
    参考HP:「脳神経外科疾患情報ページ 顔面けいれんとは」日本脳神経外科学会

  • 脳腫瘍について
  • 脳腫瘍とは
    脳腫瘍とは脳組織、脳神経またはクモ膜、硬膜等の周辺組織等から発生した「できもの」のことです。なかには体の他の部分から転移してきたもの(転移性脳腫瘍)や厳密には脳腫瘍ではない(脳と直接関係ない部分に発生し、腫瘍自体が脳に触れていないもの;眼窩内腫瘍、副鼻腔腫瘍、副咽頭腫瘍など)もひとまとめに「頭蓋内腫瘍」、「頭頸部腫瘍」というくくりで脳外科疾患として取り扱うこともあります。

    脳腫瘍の症状
    症状としては頭痛、複視(物がだぶって見える)、聴力低下、片麻痺(手足に力が入らない)、失語、構音障害(言葉が出にくい、しゃべりづらい)ふらつきの他、てんかん発作、痴呆症状、月経不順、不妊で見つかる方、さらには全く症状がないのに脳ドックを受けた際や転倒して頭を打った際に検査で偶然指摘される方も少なくないです。このように脳腫瘍は様々な形で見つかることが多い疾患です。一般的には1万人に1~3人(一年間)の割合で脳腫瘍患者さんがいるといわれております。専門用語では症状のある場合を「症候性」、無症状でみつかったものを「無症候性」と区別しますが、近年画像診断の進歩や脳ドックの普及によって無症候性脳腫瘍の割合が増えてきております。

    脳腫瘍の種類、診断
    脳腫瘍はまず良性腫瘍、悪性腫瘍に大別されます。それらはさらに腫瘍を構成する細胞の種類によって分類されます(組織学的分類)。大きく分けても数十種類、さらに細かく分けると100種類以上に分類されます。脳腫瘍の診断には頭部CTやMRIという検査が用いられ、これらの検査でほぼ診断が可能です。
    このように脳腫瘍であることの診断は比較的容易ですが、どのタイプの脳腫瘍に属するのかを診断するには手術(腫瘍摘出術もしくは生検術)で腫瘍細胞を取り出して詳しく観察しなければいけません(病理組織診断)。この病理組織診断が最終的な確定診断となります。脳腫瘍がどの種類に分類されるのか確定診断をつけることは非常に大事なことです。何故ならそれぞれの組織のタイプの違いによって治療方針が異なってくるからです。良性腫瘍であればその後の治療が必要ないことが多いですが、悪性腫瘍であれば手術後に化学療法(抗がん剤)、放射線治療等の追加治療が必要になることがほとんどです。もっとも多いものは髄膜腫と呼ばれる良性腫瘍、次に神経膠腫、神経鞘腫、下垂体腺腫といった順になります。

    脳腫瘍がみつかったら(治療適応とは)
    検査の結果、脳腫瘍がみつかりましたと言われて不安にならない人はいないと思われます。しかし脳腫瘍がみつかったらといってすぐに全員治療が必要となるわけではありません。治療が必要な脳腫瘍とは基本的に「それ自体が患者さんに悪影響を及ぼしているもの」であります。例えばMRI等の画像所見から悪性が疑われるもの、腫瘍が正常脳組織を圧迫しているもの、腫瘍に関連した症状がみられているもの等は早期に治療を要すると考えていいと思います。他には症状はないものの重要な神経等の近くに存在しており、大きくなってからでは摘出困難なことが予想されるようなもの、近い将来症状がみられだすと予想されるようなものでは予防的に早期の手術を考慮する場合もあります。患者さんの状態(症状、年齢、社会的背景、持病の有無、疾患に対する理解等)が手術適応を決める重要な要素ではありますが、担当医や施設によっては意見が分かれる場合もあります。特に小さめの無症候性腫瘍の場合にはその傾向が強いといえるでしょう。

    無症候性腫瘍
    腫瘍に関連した症状はないものの、検査で偶然みつかった脳腫瘍を「無症候性脳腫瘍」といいます。無症候性脳腫瘍に対する治療方針については各医師で意見がわかれることがあります。一般的には「日本脳ドック学会」が発行している「脳ドックガイドライン」が参考になりますが、これは考え方の目安であって全ての患者さんにあてはまるというわけではありません。したがってどれが正解というものもありません。「早期発見、早期治療」を薦めることもあれば「症状が出るまで待つ」場合もあります。また慎重な「経過観察」を薦め、その観察期間中に腫瘍サイズが大きくなってきた場合に手術を考えるもの、また中にははじめから放射線治療を考慮する症例もあります。

    治療の選択肢
    治療の選択肢には「外科的手術」、「放射線治療」、「化学療法」そして厳密に言えば治療ではありませんが「経過観察」も含まれます。どの治療を選択するかを決定するにはいろいろなことを考慮しなければなりません。先に述べた患者さん側の要素ももちろんですが、担当医の経験や病院の設備等も手術適応を決める大事な要素として忘れてはいけません。深くて到達困難な場所にできた脳腫瘍や、知識、経験、技術がないとできない特殊な手術などの場合、治療可能な病院は限られてきます。またより安全性を高める為の特殊な医療機器が必要になることもあります。もちろんどこの病院でもできる手術もあればどこで診てもらっても同じ治療方針を薦められる場合もあります。しかし各医師や施設ごとに意見がわかれる場合には慎重に判断をしないといけません。同じタイプの脳腫瘍をお持ちの患者さんでも一人として同じ方はいらっしゃいません。それは一人一人治療方針が異なることを意味しています。手術のリスク、治療しなかった場合のリスク等を十分に検討したうえ、でそれぞれの患者さんに合った治療方針を立てていかねばなりません。当脳神経外科ではどの治療が最善なのかを患者さんと一緒に考えていきます。

    外科的手術(開頭術)
    当院は多くの疾患の治療にあたっておりますが、特に脳腫瘍を専門としております。通常の開頭手術はもちろんのこと、経鼻的腫瘍摘出術(鼻の穴から行う手術で、頭皮を切開することはありません)や脳室内腫瘍、さらには頭蓋底腫瘍など難易度の高い脳腫瘍に対しても数多く手術を行っております。脳腫瘍摘出術専用の手術器具や最先端の医療機器も大学病院レベルもしくはそれ以上のものが揃っており、非常に難易度の高い手術にも最小限のリスクで望めるよう常に体制を整えております。また手術顕微鏡に加え「神経内視鏡」という特殊な内視鏡や術中電気生理モニタリング、ナビゲーションシステム等特別な最新手術機器を駆使し、いかなる脳腫瘍にも最小限のリスクで手術を行うことが可能となっております。また現代の脳神経外科領域における手術アプローチのほぼ全てを行うことができます。その中でも特に「頭蓋底腫瘍」や「トルコ鞍部腫瘍」に関しては当科の専門領域としております。
    脳腫瘍の部位、手術アプローチ
    部位別ではトルコ鞍部腫瘍、脳室内腫瘍、頭蓋底腫瘍、頭蓋頸椎移行部腫瘍等ほぼ全ての頭蓋内外の腫瘍に対し対応可能です。また腫瘍の部位、大きさ、広がり具合、患者さんの症状や年齢等を考慮し最善のアプローチ(前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部、首の後ろ、耳の後ろ、鼻腔等から腫瘍に到達する経路があります)を選択します。
    手術の難易度を決める要因
    手術が医療行為である以上、決して「簡単な手術」などというものは存在しません。どの薬にも副作用があるのと同じで、どの手術にもリスクがつきまといます。しかし各手術によって「難易度」の差があるのは事実です。腫瘍とその周囲の状況は術前MRI等の検査によってある程度は把握できますが、実際に手術を行ってその部位を直視下に観察するまでは分からないことも少なくありません。手術の難易度を決定する因子として腫瘍の大きさ、解剖学的位置(局在)はもちろんのこと、「血管に富んでいるかどうか(出血しやすい腫瘍かどうか)」、「周囲組織との癒着(剥がしやすいかどうか)」、「腫瘍の硬さ」、「神経や血管等周囲組織の巻き込み」等が重要になってきます。例えば腫瘍が脳の浅い部分にあり、大きさが小さく、出血もしにくく、周囲の組織を巻き込むことも無く、周囲から剥がしやすく、そして腫瘍が柔らかければ手術の難易度は低くなります。逆に腫瘍が深い位置にあり、大きく、出血しやすく、周囲組織を巻き込んでおり、癒着が強く、硬ければ手術は非常に困難なものとなります。周囲の神経、血管等重要構造物を巻き込んでいる場合には、手術による後遺症を出さない為に「腫瘍の摘出よりも神経や血管の温存を優先する」こともあれば、将来的な「再発防止目的にて腫瘍周囲の組織も含め広範囲に切除する」こともあります。このような切除範囲や切除程度の決定については腫瘍の組織像(良性か悪性か)、広がり、年齢、症状、初発なのか再発なのか等を考慮したうえで、術中の執刀医の判断によってなされます。再発や再増大に対する手術は「初回手術」よりも手術そのものの難易度が上がり、再手術における神経温存は更に困難なものとなります。

    セカンドオピニオン
    他の病院で手術ができないといわれた患者さん、以前手術で切除した腫瘍が再発したが手術不可能といわれた患者さん、そして他の病院で手術が必要といわれたが本当に必要かどうか他の医師の意見を聞きたいという患者さん等に対しては「セカンドオピニオン外来」も行っております。もちろん当院で初めて脳腫瘍と診断された場合でも他の病院、他の先生の意見が聞きたいといったお申し出があればいつでもおっしゃって頂いて結構です。

    Duke大学脳神経外科教授福島孝徳医師の執刀手術

    非常に難易度の高い手術や治療困難症例、他院での手術を断られたりした症例等につきましては、頭蓋底外科の世界的権威であり鍵穴手術の創始者でもある米国Duke大学脳神経外科教授福島孝徳医師による指導、技術協力のもと手術を行っております。当院は福島医師の日本国内における拠点病院として特に困難な症例を取り扱っており、福島医師の執刀手術は約2ヶ月おきに予定されております。
    手術以外の治療
    放射線治療科との密な連携により、手術後の追加治療としてだけでなく、様々な理由で手術を受けることが困難な脳腫瘍患者さん、またはじめから放射線治療を希望される患者さんに対しては「サイバーナイフ」という最先端の放射線治療を行っており良好な成績を出しております。悪性腫瘍については特殊な化学療法が必要になる症例以外は手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療(サイバーナイフのみ)の集学的治療を行います。詳細は「放射線治療科サイバーナイフ」のページをご覧下さい。また病理組織診断の結果、特殊な化学療法が必要な脳腫瘍であることが判明する場合が稀にあります。そのような場合には速やかに他の専門機関にご紹介できるようになっております。

  • てんかんについて